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凡例

題名 著者 / 編者 出版社
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評は☆◎○△×の5段階です

テス トーマス ハーディー 岩波文庫
宮尾 登美子 中公文庫
明治から昭和にかけての新潟の地主の家を舞台にした、烈という盲目の一人娘を主人公とした小説である。
烈の家=田乃内家は、祖父の代に家業の多角化をはかり、敷地内に蔵を建てて蔵元となった。 しかし、祖父はじきに死に、東京帝国大学工学部を出たばかりの息子の意造が、一度腐造を出したものの、蔵を発展させた。 だが家庭においては子宝に恵まれず、ようやく育った一人娘の烈も遺伝的な「底翳(そこひ)」により次第に視力が低下し、ついには失明してしまう。 また、娘の視力回復を祈って巡礼に出かけた祖母、その後を継いだ母親の賀穂はともに体力的に無理をして、志半ばにして客死してしまう。 このような家庭内の相次ぐ不幸に加え、跡継ぎも盲目の一人娘しかおらず、家は傾いていくかに見えた。
体の弱かった母親の存命中はもとより、死後は母親代わりとして烈を育てた叔母(賀穂の妹)佐穂が遺言通り意蔵の後添えになると誰もが思っていたところ、彼は後取りのことも考えて、若い芸妓せきを妻に迎える。 彼女が男子を生むことにより、後取りができたかと思ったのも束の間、不慮の事故で死んでしまう。 また意造自身も脳溢血で半身不随の身になるが、面倒を見ないせきからは次第に心が離れていく。 その頃から田乃内家内では疎遠になった夫婦、家長の妻ではないが実質的に奥の采配を振るう佐穂、盲目だが立場上は後取りの烈という複雑な関係が生じ始めた。
その中で烈は我儘ながらも、強い少女に成長していった。 そして、体の自由を奪われ、家のために妻に迎えた若妻との不仲、幼い息子の死によってすっかり生きる意欲をなくした意造に対して、烈は「私が蔵を継ぐ」と宣言する。 最初は小娘の戯言としか受け取らなかった意造も次第に蔵を続けていく意欲を取り戻し、田乃内家も再び活性化していく。
酒蔵を舞台とした小説ではあるのに、あまり酒の話は出て来ない点は少々物足りなかったが、全編を通じて使われる新潟弁(最初は少々読みにくかった)がよい味を出している。
台湾 伊藤 潔 中公新書
「旅行のページ」で記したように、先日臺灣(臺北市)に旅行した。 その前に予備知識を仕入れるために読んだ本である。
オランダ人による発見に始まり、日本による植民地支配、その後の国民党による一種の侵略と、絶えず征服者によって支配されてきた歴史、そして初の本省人総統の誕生による時代の変化までが簡潔にまとめられている。 先日初の民主的な総統選挙が行われたが、彼らがなぜあれほどの大騒ぎをしたかも歴史を知ればうなずける。 また、著者自身臺灣系日本人であることにも留意しなければならないだろう。
ある華族の昭和史 酒井 美意子 講談社文庫
戦前わが国には華族と呼ばれる特権階級が存在した。 おもに公家や旧大名達である。 そのなかでも旧加賀藩主前田家は候爵家となり、当主はロンドンに駐在したりして政治的に活躍した。 本書はその娘であり、後に従兄の酒井家に嫁いだ著者の半生を描いた自伝である。
一般庶民の戦前戦後とは異なる、華々しい戦前の生活、苦難の戦後の生活などが当事者の視点で描かれていて大変興味深い。
流転の海 宮本 輝 新潮文庫
次に記す第2部が出版されるにあたって再読した。
[続く]
地の星 -流転の海第2部- 宮本 輝 新潮文庫
ドナウの旅人 宮本 輝 新潮文庫
月と六ペンス W. サマセット モーム 新潮文庫
空飛び猫 アーシュラ K. ル=グイン 講談社文庫
好きなルグインの作品なので買ったが、何だか今一つでした。 でも挿絵はそれなりに可愛くてよいかもしれません。
花神 司馬 遼太郎 新潮文庫
百姓上がりの町医の子として幕末の長州藩に生まれた村田蔵六(後の大村益次郎)の一生を描いた作品。 蔵六ははじめ蘭方医を目指し大阪の緒方洪庵の主催する適塾に学びオランダ語および蘭法医学を習得した。 しかし時代は医家としての彼の能力よりも、語学者としての彼の能力を必要とし、伊予宇和島藩や幕府に召し抱えられて主に蘭書(特に兵学書)の翻訳に従事した。 しかし、常識的に考えると不可解なことに、この当時の日本で最も海外事情に明るかったと思われる知識人が、郷土愛から待遇の良いこれらの職や江戸での生活を捨てて、過激な尊王譲夷論を唱える長州藩に自らの意志で仕えるようになる。 しかもいままでよりも遥かに悪い待遇である。
彼はこの長州藩の軍事的指導者として度重なる幕府軍などとの戦いを勝ち抜き、維新の嵐を引っ張っていく。 しかし、彼の無骨な性格や人あたりの悪さがたたって、数多くの誤解を生み、最後は過激派の襲撃を受け、しばらくして死ぬことになる。
この小説で強調されるのは一人の技術者としての彼の生き方である。 彼は地位の高低にかかわらず自分はあくまでも技術者に過ぎないという意識のもとに一生を送った。 彼が名声を欲する人間ならば、いくらでも偉く有名になる「利口」な生き方ができたはずだが、彼はそのようなことを考えたことすらなかったにちがいない。 結果的には江戸幕府に仕え続けて維新の大乱で賊軍の一味になることを免れて維新後は官軍に属する者になることができた訳だが、これなどは先見の明があったというよりは、単なる偶然であったように思われる。
随所に技術者としての時には極端なまでの徹底ぶりが伺え、そのまま真似をするか否かは別としても、技術者のはしくれである者として参考になる小説だった。
また、以前読んだ「ふぉん・しいほるとの娘」と時期や内容がほぼ重なるため、日本初の女医である楠本イネを別の視点から描いているので、その点でも面白かった。
なお、この小説は武田信和さんに紹介していただいた。よい小説を紹介していただき感謝しています。
ナウシカ解読 稲葉 振一郎 窓社
30代前半の著者が漫画/アニメ「風の谷のナウシカ」が内包する重要な問題点や出来事の意義について哲学的な立場から論じている。 この手の論理展開は私にとって若干難しかったが、いままで「ナウシカ」の中ではっきりとしなかったいくつかの出来事に関してかなり明確に自然な解釈を与えており、他にも沢山ある同種の解説本にありがちな強引な論理展開や結論付けとは異なる。
ただし、「ナウシカ」の本論とは直接は関係ないユートピア論などの紹介や考察の部分は、正直言って若干まどろっこしかった。
魔の山 トーマス マン 岩波文庫
星界の紋章 I〜III 森岡 浩之 ハヤカワ文庫JA
新人作家ながら、評判がよかったので読んでみた。 話の筋は読者を飽きさせず、面白いのだが、戦闘の描き方や細かなところで物足りないところが目についた。
戦争の法 佐藤 亜紀 新潮文庫
主人公は男性なのだが、読みはじめてしばらくは女性だとばかり思っていた。 著者の意図するところか、それとも著者が女性であるために自然にそうなったのかは分からないが、その辺の文体が印象に残った。 文体と言えば、著者の文体はかなり特徴的であり、読み続けるとやみつきになりそうな癖がある。
話はある日新潟県がソ連の後押しを受けて独立し、日米およびゲリラの活動により解放されるまでの期間に青少年期を過ごした少年の物語である。 売春宿を開いた母親、闇商人となった父親、いかなる時勢でもうまく生きる人々など、人間描写が面白い。
最後の一文「結局、誰もがびっこを曳いて生きていくものだ」(だったかな?)という一文はなかなか印象に残る言葉である。
死国 坂東 眞砂子 角川文庫
「狗神」, 「蛇鏡」など非常にそそられるタイトルの和風ホラー小説を書く著者の作品の中で、また一段と読みたくなるようなタイトルの本で、文庫化を契機に買ってしまった。
四国を死国になぞらえて、遍路を逆回りする「逆打ち」なる行為により死んだ娘の復活を企む巫女、魂が天に昇る石槌山と現生に残る心が沈む主人公の故郷の池、魂と心の融合による肉体の復活、…などもよくできた設定で読者をあきさせない。 随所に実在する文献が登場し独自の解釈が加えられる辺りも面白い。
ただ、著者の他の小説にも言えることだが、「自分は過去に死んだ誰それに怨みを持たれてるなどと露とも知らなかったのに、いつの間にか怨まれていた」という設定が多い。 しかも、その理由が大抵かなり理不尽というか我儘な理由なのである。
そんな理由で成仏しないで怨むかなぁ、というのが納得できず、今一つ現実感を失わせているように思う (現実じゃないんだけどね、多分)。
「不安と憂うつ」の精神病理 大原 健士郎 講談社+α文庫
コンスタンティノープルの陥落 塩野 七生 新潮文庫
コンスタンティノープルが現在のイスタンブールであることや、ビザンツ帝国の末期にオスマントルコに襲われて陥落し、東地中海からキリスト教の灯が消えたことをご存知の方は多いだろう。 しかし、それは世界市の授業で「コンスタンティノープルはトルコ軍の攻撃により陥落し」といった一文で片付けられていることが多く、私自身もそれ以上の知識はなかった。
しかし、本書は陥落へ至るまでの道のりと背景を、記録の残っている当時の実在の人々を登場させることにより、あたかも読者が追体験しているかのようにして描き出している。 読み終わったころには、陥落が単なる武力の衝突という表面的な事象だけではなく、同じイタリアの海洋国家であるヴェネツィアとジェノヴァの確執や他のキリスト教国の事情などが絡まりあい、ある意味で必然的であったことが感覚的に理解できたように思う。
よみがえれ! 線路よ 街よ 西日本旅客鉄道株式会社 交通新聞社
同級生 東野 圭吾 講談社文庫
女歌 中島 みゆき 新潮文庫
中島みゆきってどんな人なのかなぁ、と思わせるような、身近な出来事を扱った短篇集です。
…と言っていたら、CDを貸してもらえました。ありがとう!
放課後 東野 圭吾 講談社文庫
蘭学事始 杉田 玄白 岩波文庫
蘭学史に興味があったので、一度は読まねばならないと思って読んだ。
しかし、著者の杉田玄白は吉村昭の「(調査中)」に描かれているように、いささかそそっかしく、かつある意味で調子のよい人物であることが、彼自身が書いている自分の行動や内容の不正確さに現れているように思われる。 しかし、それでも学問的正確さを求める共著者の前野良沢と実利性を重んじる杉田玄白のどちらも蘭学の広がりに、ひいてはわが国の学問の発展に貢献したことに間違いはないだろう。
ロードス島攻防記 塩野 七生 新潮文庫
「コンスタンティノープルの陥落」に続くシリーズ第2作で、コンスタンティノープル陥落後、東地中海全域を支配下に置くために、どうしても取り除かなければならない喉元の刺であるロードス島を巡る、トルコ皇帝スレイマン1世とロードスを根拠地とする聖ヨハネ騎士団の攻防戦の顛末を描く。
時代は中世が終わろうとする時代で、その最後の名残である騎士階級の消滅と重なりあった騎士団の敗北に至るまでの経緯は、騎士の実像に迫ることができ、とても興味深い。
しかし、驚異的なのは、その後紆余曲折を経ながらも聖ヨハネ騎士団はシチリアの南に位置するマルタ島に根拠地を移し、そして現在はローマに独立した領土をもち奉仕活動を続けているということだろう。
バルタザールの遍歴 佐藤 亜紀 新潮社
人に勧めたので改めて読みかえしてみました。
20世紀中葉の没落貴族(しかも幽体離脱する二重人格者)がさらに没落していくさまを、舞台をパリ, ウィーン, 北アフリカへと変えつつ、描いていく小説だが、不思議なことに悲壮感があまりない。
話の内容は特にどうということもないのだが、小説全体が醸し出す雰囲気がよい。
レパントの海戦 塩野 七生 新潮文庫
大地の子 山崎 豊子 講談社文庫
嵐ヶ丘 エミリ ブロンテ 岩波文庫

Books I read in 1996 (in Japanese)